あんたは、外で幸せにならんばよ。

エッセイ

私が大学を卒業して就職したのは、久留米市内にある大きな精神科病院でした。

臨床心理士の卵として採用され、配属されたのは、院内唯一の閉鎖病棟。

大きな鉄の扉で閉ざされた中に、右も左もわからない無知な21歳の私は、たった一人放り込まれました。

 

重度の慢性患者さんのための閉鎖病棟には、意外にも、のどかな時間が流れていました。

患者さんは、退院したいと願いながらも、もう一生ここから出られないのだと思っている方がほとんどで、私が一番好きだった患者さんもその一人。

彼女は病のため、いつもどこか違う世界で、誰かと戦っていましたが、私にはいつも優しく話しかけて下さいました。

 

一年半後、今日が最後の出勤日という日。

その日も彼女は、一瞬だけこちらの世界に戻ってきて私に話しかけて下さいました。

今日が最後だと私が別れを告げると彼女は、私の目を見てこう言ったのです。

「私は、もう一生ここから出られんけど、
あんたは、外で、幸せにならんばよ」

 

ほんの一瞬だけ戻った、「本当の彼女」で発せられたこの言葉が、今でも私の中に残っています。

苦しみの中にいながら、それでも純粋に人の幸せを願う彼女の言葉に、

「ああ、人には精神の病さえも犯すことのできない神聖な領域があるんだな」と知りました。

きっと、その領域は、私たちの中にもあるはず。

なかなか、その領域には到達できませんが、それでも私は、そう信じています。

 

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