第1章 人生の終わり〜6.死の選択〜

◀︎第1章 人生の終わり〜5.生まれる前に決めてきたこと〜

「これが今あなたがいる地図です。ちょっとこれをみてください」
私はそういうと、地面に散らばる運命の地図の山から徐ろに一枚の地図を取り出して、持っていた地図と重ね、光にかざしてこう言った。
「こうしてかざしてみるとわかるのですが、今いる地図から今取り出したこちらの地図には直接移行することはできません。」
「え?なぜ?」
彼女も私がかざした2枚の地図を覗き込んできた。
「ほら、重なるポイントがないんです。地図から地図へと移行するには、光の道のどこかに重なるポイントがないと。そこが分岐点になるんです。でも、この地図は見事なほど重なるポイントがありません。」
「じゃあ、その地図には移行できないってこと?」
「いえ、きっとこの2枚の地図を繋げてくれる地図が何枚かあるはずです。それを見つけて間に挟んであげるんです。するとそれぞれの分岐点から地図の移行ができて、段階的にこちらの地図に移行していけます。でも、間に挟むその地図を見つけるのも大変ですし、地図の移行をサポートする回数も増えて大変です。とは言っても、あなたの人生の終わりが、満足できるものであることが一番大切です。あなたの人生ですから、それはあなたにしか選ぶことができません。ですから、この膨大な地図の中から、まずはあなたが望む最期の地図を探してください。それから、今のこの地図と重ね合わせて移行する分岐点を探し、新しい地図へ地図上のあなたを導いていきましょう。」
彼女は私の話を理解すると、膨大な量の地図の結末を一枚一枚確認し始めた。その結末は本当にバラエティに富んでいた。中には信じられない夢物語のような結末のものもあったし、目を覆いたくなるような悲しい結末のものもあった。彼女は一枚一枚、地図を確認していたが次第に表情が曇ってきた。私は、重大なあのことを伝える時が来たことを悟った。彼女の表情は、みるみる悲しみに沈み、彼女はポロポロと涙を流して泣き始めた。

「どうして?」
彼女はそう何度も呟きながら、何枚も何枚も地図を確認していった。そしてやっと、人生の最期を変えるということが何を意味するのかがだんだんわかってきたようだった。彼女は、私にそれを確認することを躊躇っているようだった。きっとそれを受け入れるのが怖いのだろう。
しばらくすると、彼女は大きくため息をつき、両手に持った運命の地図を地面に散らばった地図の山にそっと置くと、涙を拭い、私を真っ直ぐに見て尋ねた。
「ねえ、一つ確認してもいい?」
「はい。気になっていることを聞いてください。」
「これって、どうして人生の最期が違うと、その地図の上にいる人も最期に一緒にいる人もみんな違うの?人生の最期を変えると、地図上にいる運命を共にする人たちがみんな違う人になってる。主人や娘たちと迎える最期の地図は、何百枚もあって今よりもっともっと豊かで楽しい夢のような未来もあるけれど、最期は結局62歳で突然死することになってる。なぜ、どれも必ず62歳で突然死することになっているの? なぜ? なぜ主人や娘たちと一緒に100歳まで生きる運命の地図がないの? 100歳まで生きることができる運命の地図もあるけれど、その地図の上に主人や娘たちはいないじゃない。全く知らない別の人がいる。他のすべての地図も人生の最期によって一緒にいる人が違う。なぜ?なぜ、人生の最期を変えると一番大切なものまで変えなければならなくなるの?」
彼女は涙を流しながら私に訴えた。これこそが、私が一番伝えたくなかった残酷なルールである。目の前にはこれだけ膨大な地図の山があるのに、愛する今の家族と共に長生きするという運命の地図が見当たらないのだ。彼女はワーッと泣き崩れた。彼女のその姿に胸が締め付けられたが、私は自分の仕事をまっとうするしかない。真っ直ぐに彼女を見つめてありったけの愛を込めて静かに伝えるべきことを伝えることにした。

「それは、死というものが実は、死ぬ人よりも残される人への人生のレッスンだからです。あなたの死は、旦那さんと娘さん二人、それだけでなく、あなたのお母様、弟妹、友人。あなたに関わる全ての人に影響を与えます。それは、あなたという存在のおかげで保たれていた色んな均衡が一時的に崩れ、みんなが見ないようにしていたチャレンジに向き合うことになり、それによって、本来の人生の学びを促されたり、新しい選択をして新しい運命の地図へと移行するきっかけになったりするからです。または、本来の地図に戻ることになるかもしれないのです。また、そこでは自分を赦すことや他人を赦すというレッスンがあるかもしれません。誰と出会って、誰と最期に一緒にいるかで、あなたの寿命も死に方も変わります。死というのは、あなたがその命をかけて愛する人に残す命のレッスンなのです。だからもし、人生の最期を変えたいのなら、残された人のためのその命のレッスンは他の誰かに譲って、あなたは全く違う人と出会い、共に生きる人生を選び、その人たちとの最期を迎えなければなりません。」

ここまで説明して、突然私は涙がこみ上げてきた。それをグッと堪えて続けて言った。
「あなたは、お孫さんを欲しがっていましたよね。でも、今回の人生では恵まれませんでした。もし、あなたが望むなら、今から過去に戻って、こちらの100歳まで生きる運命の地図を選択することができます。こちらの地図でしたら、お孫さんを抱っこすることができますし、100歳まで長生きすることができます。それに、もっと高いレベルであなたの人生の目的を果たすこともできます。きっと、今回の人生より、得るものも大きいはずです。」
「・・・でも、そこにいる人たちは、主人や娘たちじゃないんだよね? 姿形が違っているだけ、とかじゃなくて、全く違う存在なんだよね。」
「そうですね。また別の存在ですね。だけど、それはそれでその人生になれば、あなたの意識もその人生に同調しますし、その人生が、あなたの人生に置き換わりますので、そうなれば、そこがあなたが生きる世界になります。だから、旦那さんや娘さんがいたこの人生のことは忘れます。残された人たちの中でも、あなたは存在しなかったことになります。新しい家族と暮らしていれば、その人生で出会った人に愛情もわくと思いますし、学ぶことも多いと思いますし、そちらの人生は、そちらの人生で楽しいと思いますよ。」
私は、まるで彼女を試すかのように言った。とても嫌な言い方だ。でもそれが、私の仕事だった。彼女は私の話を聞いて、再び泣き崩れた。彼女は何かを思い出したのだ。自分がなぜ、この地図を選んだのか・・・。彼女は、それを思い出した。しばらくの間、彼女はこみ上げてくる涙を抑えられず声を押し殺しながら泣いていた。ひとしきり泣いた後、覚悟が決まったようで、込み上げる涙をぐっと堪え涙を拭いて静かにこう言った。
「100歳まで生きる運命の地図も、孫を抱ける運命の地図も、その他のここにあるたくさんの結末もすごく魅力的な誘惑だけど、私、約束したんだよね。主人と。ここで会おうって。」
彼女はそう言って、最初の地図を指差した。それはあと二週間で突然終わってしまう人生の地図だった。
「だから、私はこの体を選び、この運命の地図を選んだの。こんなにたくさんの地図の中から。」
私は、彼女の魂の声を聞いて、溢れてくる涙をグッと堪えながら決められた最終確認の仕事を遂行するため、なんとか声を絞り出した。
「でも、二週間後、死んじゃいますよ? お孫さんも抱けませんよ?」
その言葉に、彼女はもう少しも動揺しなかった。
「たとえ寿命が短くなろうが、突然の悲しい最期だろうが、みんなと一緒だったこの人生が最高に幸せだったからいい! それでも。」
「あんなに苦労して、あんなに大変な思いをしたのに?」
「そうよ。全部ひっくるめて幸せだったもの。どんな人生であろうと、どんな最期であろうと、私にとっては誰と一緒にいたかが大切なの。みんなと出会えない人生なんて考えられない。」

彼女はもう死を恐れてはいなかった。彼女の中から溢れてくる愛は、死への恐れを優しく消し去ったようだ。

「死が怖くないのですか?」

「怖くないって言ったら嘘になる。でも、どの地図の上にいてもいつかは地図を去る日が来るんだよね。死というのは避けられないことなんだよね。だったら、私はどんな最期であっても、みんなと一緒に生きるこの地図を選ぶ。もし、この地図の最期がもっともっと残酷な最期だったとしても、私は迷わずこの地図を選ぶよ。」
私は、もう我慢ができなくなって、溢れてくる涙をぬぐいながら、彼女の愛の深さに感動してこう言った。
「あなたって人は・・・。この人生で出会った、全ての人を愛していたのですね。」
「そうね。一人たりとも出会いを逃したくないくらいに。」
「そうですか。では、このままこの地図の上に戻ってもいいのですね?」
「うん、もう他の地図は必要ない」

 彼女はそう言って、散らかった膨大な運命の地図を重ねファイルに戻して、そっとファイルを閉じた。残ったたった一枚の運命の地図を大事そうに胸に当てると、彼女は大きく深呼吸し静かに目を閉じた。
きっとこの人生で出会った人たちとの思い出が駆け巡っているのだろう。彼女はまた溢れてくる涙を堪えきれず泣いた。それでも、たった今、自分で下した人生の決断には満足しているようで、まるで自分に言い聞かせるように、小さな声でこう呟いた。

「ああ、この運命は、私が自分で選んだのか。みんなと出会うために。」

ホリスティック・ライフコーチ 大津真美

唯一無二の私で生きるためのエッセンスをお届けしています。

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